1年生の時の恩師が異動となり、迎えた2年生の春。
娘の小学校では、1年生から2年生へは「クラス替えなし」でそのまま持ち上がるシステムだった。
メンバーは全く同じ。変わったのは、担任の先生だけである。
小2の担任は、保育園に通うお子さんがいる20代後半の女性の先生だった。
少しでも誰かがうろうろすると「やめなさい!」と大きな声を出すタイプの人だった。
そのたった一つのピースが変わっただけで、教室の空気は一変した。
1年生の時に絶妙に保たれていた教室の秩序が失われ、少し手のかかる子どもたちのエネルギーが良くない方向へと溢れ出したのだ。
教室はあっという間に荒れ、文字通りの無法地帯になってしまった。
学校公開で見た「学級崩壊」のリアル
クラスには多動気味の男の子が2人いた。
保育園からの幼馴染らしく、1人がリーダー格、もう1人が子分格のような関係性だった。
彼らは休み時間だけでなく、授業が始まってもずっと戦いごっこを続けていた。
夏休み明けの学校公開の日、信じられない光景を目にした。
リーダー格の子が、学童で作ったらしい牛乳パックの底の固い部分(メンコのようなもの)を天井に向けて投げていた。
それが天井に当たって角度を変え、先生に当たってしまったのだ。
血相を変えた先生がその子のそばに行き、抱きついて止めに入ると、今度はその子が先生のお腹を蹴り始めた。見かねてわたしも思わず止めに入ったほどだ。
クラスがこんなにも大変な状況だったので、
先生の負担を考えると「娘が学校に行き渋っている」なんて相談はとても言えないような空気があった。
結局、先生は10月頃に産休に入り、それ以来学校へは来なくなった。
最後に先生の姿を見かけたのは、その年度の終わり。
小2の3月に新型コロナウイルスの影響で全国一斉休校になり、家庭学習用のプリントが学校で配られた時のことだ。
その時の先生は、プリントが入った袋をすごく笑顔で渡してくれた。
「あぁ、なんだか清々したのかな」
と、ふと思ったのを覚えている。
その後、先生は産休から復帰するタイミングで別の学校へ異動になり、会うことはなかった。
少し余談になるが、例の男の子2人は小3でクラスが離れた。
子分格だった子はすっかり落ち着き、おとなしめの男子と友達になって小6まで平和に過ごした。
一方、リーダー格の子は小3でも娘と同じクラスになったが、ずっとウロウロ歩き回って授業が聞けない状態が続いた。
発達相談を受けたものの学校内に受け皿がなく、大人しくさせるための苦肉の策として、授業中も教室の隅で先生のノートパソコンでYouTubeやアニメを見せられていた。
娘に聞いても、普段からずっとその状態だったそうだ。
結局その子は小4で転校していったが、公立学校の限界を象徴するような出来事だった。
限界を迎える娘と、本の世界への逃避
周りの刺激に過敏な娘にとって、大声と無秩序が支配する空間は想像以上のストレスだった。
毎日「行くのが嫌だ」と言い、なだめながら送迎を続けたが、月に1回くらいは休むようになった。
校門の前で立ち止まってしまうことも多々あり、先生が迎えに来てくれて渋々入っていくことが繰り返された。
クラスの女子たちがいろいろと遊びに誘ってくれたが、娘は常にいっぱいいっぱいの状態だった。
近所の子と家の周りで遊んでみても、すぐに帰ってきてしまう。
幼稚園の頃に工作という共通の趣味で仲良くなったお友達のように、「共通の好き」がないと関係を築くのが難しいのかもしれない。
話していても「なんか違う」と感じていたようだ。
家に帰ると、すぐに寝転がってずっと本を読んでいた。
当時は『都会のトム&ソーヤ』や鉱物の本に没頭していたのを覚えている。
それが彼女なりの現実逃避だったのかもしれない。
公立への見切りと、私立中学という選択肢、そして一斉休校へ
この小2の荒れた教室を見て、わたしは「公立の学校に通い続けるのは難しいかもしれない」と冷静に感じ始めていた。
決して大げさな決断を下したわけではない。
当時、娘は幼児教室(トイズアカデミー)を続けており、1、2学年上の内容を学び、本もたくさん読んでいた。
学ぶこと自体は好きなのだ。
それならば、勉強に集中できて、娘のような少しグレーな特性を持つ子でも楽しく通えそうな私立中学に入れればいいのではないか。
今は私がいないと電車も乗れない、人とも会いたくないような子だけれど、数年後は変わっているかもしれない。
そう考えて、中学受験のための塾に通い始めることにした。
娘が小学校に入った頃から、中学受験はすでに異常な過熱ぶりを見せていた。
サピックスのような大手塾は小1で入らなければ席がなく、小2の時点ですでに順番待ちという状態だった
そもそも、そうした激しい競争環境は娘には合わない。
そのため、10人から18人程度の少人数をしっかり見てくれる塾を選ぶことにした。
塾を選び、いよいよこれからという小2の3月。
新型コロナウイルスによる一斉休校が始まり、学校というシステム自体がパタリと止まってしまうことになる。

